日本のことを「帝国」と呼んだ戦前の法律
戦前の日本の法令では、日本のことを単に「帝国」と表現することがしばしばあった。例えば、著作権法(明治三十二年法律第三十九号)の第三十一条では、以下のように日本を「帝国」と記していた。
「帝国」という表現の変更
法令中のこうした「帝国」は、戦後の法改正により少しずつ消えていった。例えば、刑法(明治四十年法律第四十五号)ではもともと「帝国内」・「帝国外」などといった表現が用いられていたが、1947年の法改正により「日本国内」・「日本国外」といった表現に改められている。
「帝国」が残っている法令
しかしながら、2019年に至っても表現が改められずに、いまだに日本のことを「帝国」と呼んでいる法令が存続している。e-Gov法令検索に載っているものをもって現行法令とすると、「帝国」が残っている現行法令が色々とある。
例えば、外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及模造ニ関スル法律(明治三十八年法律第六十六号)においては、以下のように「帝国」が用いられている(強調は引用者による)。
さらに、印紙犯罪処罰法(明治四十二年法律第三十九号)でも、以下のように「帝国」をもって日本のことを指している(強調は引用者による)。
このほか、外国人土地法(大正十四年法律第四十二号)でも、日本を指す「帝国」が用いられている。この法律は、「臣民」という表現が存続している点でも特異である(強調は引用者による)。
また、これは法律ではないが、政治犯人等ノ資格回復ニ関スル件(昭和二十年勅令第七百三十号)という勅令がある。この勅令の別表においては、「朝鮮若ハ台湾又ハ関東州、南洋群島其ノ他帝国外ノ地域ニ行ハルル又ハ行ハレタル法令ノ罪ニシテ前各号ニ掲グル罪ト性質ヲ同ジクスルモノ」(強調引用者)と記されている。これは、大日本帝国憲法下で出されたものではあるものの、戦後に出た法令で日本を示す「帝国」がまだ残っている例である。
なお、ここでは「其ノ他ノ帝国外」ではなく、「其ノ他帝国外」と言っている。このことから、朝鮮・台湾・関東州・南洋群島は帝国外として扱われていないことが分かる。法律用語として、「A、B、C其の他のD」という場合はA、B、CはDに包含されるが、「A、B、C其の他D」ならばA、B、CはDに包含されないためである。