はじめに
著作権の保護期間終了によって、2017年1月1日からその作品が自由に使えるようになった人について紹介する。
日本の著作権法では、基本的に著作者が死んでから50年経つまでは著作権の保護を受けることになっている。つまり、死後50年間は、勝手に複製したり、配付したりすることができない。しかし、50年経つと、著作権がなくなる。これにより、だれもが自由に作品を使うことができるようになるのだ。そうすると、自由に複製ができるし、インターネット上に勝手に掲載しても文句を言われなくなる。50年の時を経て、著作者本人のものから、「みんなのもの」になるのだ [1] 。
なお、死んでから50年というのは、死んだ日からちょうど50年が経ってからという意味ではない。著作権は、死んだ年の50年後の年末まで残り、その翌年の初めから自由に使えるようになる。例えば、1966年に死んだ人の作品は、1月に死のうとも12月に死のうとも、2016年の12月31日で著作権の保護がなくなり、2017年1月1日から自由に使えるようになる。
以下、分野別に2017年1月1日から作品が自由に使えるようになった人たちを紹介する。いずれも、1966年に死んだ人である。なお、著作権が切れた作品などを公開するウェブサイト青空文庫に作家別作品リストが用意されている人物については、そのリンクを記しておいた。
小説家
- 大下宇陀児(推理小説)
- 山中峯太郎
- 楠田匡介(推理小説)
- 五十公野清一(農民小説、少年小説)
- 新井紀一
- 上田広
- 佐佐木茂索
- 武野藤介
- 田中純
- ツルゲーネフなどのロシア文学の翻訳にも当たった。
- 仲町貞子
詩人・俳人・歌人など
- 矢沢宰(詩人)
- 梶浦正之(詩人)
- 中野秀人(詩人)
- 勝田香月(詩人)
- 下村槐太(俳人)
- 柴田宵曲(俳人)
- 中島哀浪(歌人)
- 川田順(歌人)
- 田辺若男(歌人・詩人)
- 野村俊夫(作詞家)
- 島倉千代子が歌った「東京だョおっ母さん」の作詞者。
その他の著作家
- 亀井勝一郎(文芸評論家)
- 小宮豊隆(文芸評論家)
- 小沢不二夫(脚本家)
- 美空ひばりが歌った「リンゴ追分」の作詞者。
- 三宅晴輝(経済評論家)
- 主な作品に『日本銀行』や『松永安左エ門』がある。
- 池田林儀(ジャーナリスト)
- 優生思想に傾倒し、雑誌『優生運動』の編集をしたことで知られている。
芸術家
- 河井寛次郎(陶芸家)
- 小穴隆一(洋画家)
- 芥川龍之介の親友で、芥川の著書の装幀にたずさわった。
- 川口軌外(洋画家)
- 島野重之(洋画家)
- 相馬其一(洋画家)
- 山下新太郎(洋画家)
- 原勝郎(洋画家)
- 川端龍子(日本画家)
- 高畠華宵(挿絵画家)
- 独特の美人画で知られる。
- 斎藤五百枝(挿絵画家)
- 山端庸介(写真家)
- 長崎原爆投下直後の写真撮影で知られる。
- 加藤顕清(彫刻家)
- 畑正吉(彫刻家)
- 岩田千虎(彫刻家)
- 動物の彫刻で知られる。
- 小林和平(彫刻家)
- 狛犬の製作で知られる。
- 小松耕輔(作曲家)
- 佐々木すぐる(作曲家)
- 「月の沙漠」などの童謡の作曲で知られる。
- 佐野碩(演出家)
- 「インターナショナル」の歌詞の和訳にもたずさわった。
- 清水宏(映画監督)
- 二川文太郎(映画監督)
- 村田安司(アニメーション作家)
学者
- 大内経雄(経営学)
- 小泉信三(経済学)
- 安倍能成(哲学者)
- 八杉貞利(ロシア語学)
- 魚返善雄(中国語学)
- 主な作品として『漢文入門』がある。
- 『西遊記』・『水滸伝』などの中国文学の翻訳もある。
- 東条操(日本語学)
- 日本の方言研究で知られる。
- 主な作品として『全国方言辞典』や『国語学新講』がある。
- 小倉豊文(日本文学)
- 宮沢賢治研究などで知られる。
- 小高敏郎(日本文学)
- 松永貞徳研究などで知られる。
- 佐成謙太郎(日本文学)
- 謡曲研究などで知られる。
- 次田潤(日本文学)
- 万葉集などの上代文学研究などで知られる。
- 主な作品として『万葉集新講』や『古事記新講』がある。
- 深瀬基寛(英文学)
- 中島清(ドイツ文学)
- 浅野五郎(地質学者)
- 平田森三(物理学)
- 青木保 (機械工学)
- 佐々木隆興(医学)
- 二木謙三(医学)
- 田尻敢(医学)
- 暉峻義等(医学)
- 労働衛生の研究で知られる。
- 内田勇三郎(心理学)
- 性格検査でよく使われている「内田クレペリン検査」を開発した人物。
- 江川英文(国際私法)
- 角田幸吉(親族法)
- 武内義雄(中国思想)
- 主な作品として『中国思想史』や『論語の研究』がある。
- 小島祐馬(中国思想)
- 仁井田陞(中国法制史)
- 主な作品として『唐令拾遺』や『東洋とは何か』がある。
- 守屋美都雄(中国史)
- 村上直次郎(日本史)
- 日欧交渉史などの研究で知られる。
- 中井宗太郎(美術史)
- 野間清六(美術史)
- 青空文庫での作家別作品リスト:野間清六
- 青空文庫で2017年1月1日に公開された作品:「百済観音と夢殿観音と中宮寺弥勒」
- 板垣鷹穂(美術史)
- 鈴木栄太郎(社会学)
- 主な作品として『日本農村社会学原理』や『都市社会学原理』がある。
宗教家
- 鈴木大拙(禅)
- 梅原真隆(浄土真宗)
- 赤岩栄(キリスト教)
- 主な作品として『キリスト教脱出記』がある。
- 井上伊之助(キリスト教)
- 台湾原住民へキリスト教を布教した人物。
- 主な作品として『台湾山地伝道記』や『生蕃記』がある。
建築家など
社会運動家
- 松本治一郎(部落解放運動)
- 主な作品として『部落解放への三十年』がある。
- 貝澤藤蔵(アイヌ民族運動)
- 主な作品として『アイヌの叫び』がある。
- 河合悦三(農民運動)
- 主な作品として『農村の生活』がある。
- 河崎なつ(婦人運動)
- 主な作品として『新女性読本』がある。
その他
- 熊沢寛道
- 南朝の末裔を自称し、終戦直後に皇位を要求した。
- 主な作品として『南朝と足利天皇血統秘史』がある。
- 下条康麿(内務官僚)
- 主な作品として『社会政策の理論と施設』がある。
- 荒木貞夫(陸軍軍人)
- 皇道派の重鎮。
- 文部大臣に就任し、軍国主義教育を推進。
- 「皇国の軍人精神」、「全日本国民に告ぐ」などの演説がある。
- 牟田口廉也(陸軍軍人)
- 第二次世界大戦中に、ビルマからインドへの進攻を目指すインパール作戦を指揮し、大失敗に終わり、多くの将兵を死なせた。
- 上記の失敗に関する弁明として「1944年「ウ」号作戦に関する国会図書館における説明資料」がある。
- 藤田西湖(忍者)
- 主な作品として『最後の忍者どろんろん』がある。
脚注
- ところで、TPPとの兼ね合いで著作権法が改正され、著作権保護期間を死後50年から70年に延ばされようとしている。私はこの動きに反対だ。70年に延びると、昔の作品が死蔵されるようになり、社会はこうした作品から利益を受けられなくなる。これに対して、70年に延びることで利益を得ることができるのは、ごく一部の商業的に成功している著作権者だけだ。一部の利益と社会全体の利益のどちらが大事だろうか。 [↩]