日本に女性首相が生まれると、グローバルジェンダーギャップ指数はどれぐらい変わるのか

概要
日本に女性首相が生まれただけでは、グローバルジェンダーギャップ指数の値は大きくは変わらない。女性首相が相当の年数在任しないかぎり、値は明確に改善しない。

はじめに:女性首相が生まれると、グローバルジェンダーギャップ指数が「かなり改善する」のか?

各国の男女平等の度合いを示す指標として、グローバルジェンダーギャップ指数 (Global Gender Gap Index, GGGI) というものがある。これは、世界経済フォーラム (World Economic Forum) が毎年公表している指標だ。この指標において、1は男女格差が完全に解消されている状態、0はまったく解消されていない状態を意味する。この指数は、経済・教育・健康・政治的エンパワーメントという4つの下位分野で構成されている。

日本のグローバルジェンダーギャップ指数の数値はあまり高くない。2025年版の報告書によると、日本は148ヶ国中118位という位置にある。そして、日本の順位が特に低い下位分野が政治的エンパワーメントで、148ヶ国中128位となっている (World Economic Forum, 2025:227)。つまり、日本の政治において女性があまり活躍できていないことが、日本のグローバルジェンダーギャップ指数の低さにつながっている。

このことから、日本に女性首相が生まれれば、グローバルジェンダーギャップ指数が改善すると考えている人がいる。例えば、上智大法学部の三浦まり教授は、ハフポスト日本版のインタビューに対して以下のように答えている ((引用部分の1文目がインタビュアーのセリフ、2文目が三浦教授の返答である。)) 。

――しかし、女性総理が誕生すれば、諸外国に比べて大変低いランクでいつも話題になる「ジェンダーギャップ指数」がかなり改善しますね。

そこが「罠」なんです。ジェンダーギャップ指数は確かにかなり改善するはずです。

泉谷 (2024)

だが、女性首相が生まれたぐらいでは、グローバルジェンダーギャップ指数が「かなり改善する」ことはない。以下で見ていくように、グローバルジェンダーギャップ指数の算出方法の関係で、誰か女性首相になったとしても、それですぐに改善するわけではないのだ。

グローバルジェンダーギャップ指数の算出における女性の政治的リーダーの位置付け

グローバルジェンダーギャップ指数において、政治的エンパワーメントは3つの要素から算出される。その1つ要素が過去50年間の国家元首の在任年数の男女比である。なお、「国家元首」という名前がついているが、日本の場合は内閣総理大臣(首相)の在任年数を考えることになる。世界経済フォーラムの報告書ではこう説明されている。

The number of years in the past fifty-year period for which a woman has held a post equivalent to an elected head of state or head of government in the country. It considers prime ministers and/or presidents. Royalties are not considered.

(引用者訳:過去の50年間に、当該国で選挙で選ばれた国家元首または政府の長に相当する地位を女性が務めた年数。首相や大統領が対象で、君主は含まれない。)

World Economic Forum (2025:75)

さて、「過去50年間の国家元首の在任年数の男女比」において、1が男女格差が完全に解消されている状態、0がまったく解消されていない状態となる。これは、グローバルジェンダーギャップ指数そのものと同じだ。例えば、過去50年間のうち、「女性が首相を務めた年数」と「男性が首相を務めた年数」がちょうど半々、つまり25年ずつだったとしよう。これは完全に平等であると考えられる ((この指標の数値は1を超えないように調整する。つまり、女性が務めた年数の方が男性より長い場合は、比が1より大きくなってしまうが、そのときは数値を1とする。)) 。実際計算してみると、比は25÷25=1 となる。一方で、「女性が首相を務めた年数」が0年の場合、男性が首相を務めた年数」が50年となるので、比は 0 ÷ 50 = 0 となる。

日本に女性首相が生まれた場合の変化

さて、日本ではこれまで首相はすべて男性だった。そのためどの50年をとっても女性首相は0年となり、「過去50年間の国家元首の在任年数の男女比」は 0 ÷ 50 = 0 の状態が続いていた。

それでは、女性首相が生まれたら、この値はすぐに変わるのだろうか。そうではない。女性首相が生まれた瞬間は、女性首相の罪人年数はまだ0だからだ。

ここで仮に、女性首相が生まれて、そこから1年間無事に首相を続けたとしよう。この場合、女性1年・男性49年で比は1 ÷ 49 ≒ 0.00204になる。つまり、女性首相誕生から1年経っても指標はほんのわずかしか改善しない。

しかも、この「過去50年間の国家元首の在任年数の男女比」は政治的エンパワーメントの中でも44.3%の重みを持つに過ぎない。したがって、0.00204 × 0.443 ≒ 0.000904 しか改善しない。さらに、政治的エンパワーメント自体は指数全体の25%の重みを持つに過ぎない (World Economic Forum, 2025:73)。よって、最終的にグローバルジェンダーギャップ指数全体での改善は0.000904 × 0.25 ≒ 0.000226にしかならない。

2025年版の報告書によると、日本のグローバルジェンダーギャップ指数は0.666で118位だった。117位のアンゴラが0.668なので (World Economic Forum, 2025:13)、0.000226の上昇は順位にほとんど影響を与えず、焼け石に水ということになる。つまり、女性首相が1年だけ在任した程度では、国際順位を押し上げるほどの効果はないのだ。

しかし、在任が長期にわたれば話は変わる。たとえば女性首相が15年務めた場合を考えよう。女性15年、男性35年だから、比は 15 ÷ 35 ≒ 0.529 となる。これに0.443と0.25をかけると、グローバルジェンダーギャップ指数がおよそ 0.0475 改善することが分かる。

女性首相の在任年数別のグローバルジェンダーギャップ指数の改善幅
女性首相の在任年数 男性首相の在任年数 過去50年間の国家元首の在任年数の男女比 女性首相の在任年数が0のときに比べてグローバルジェンダーギャップ指数が改善する幅
1 49 0.0204 0.00226
2 48 0.0417 0.00461
3 47 0.0638 0.00707
4 46 0.0870 0.00963
5 45 0.1111 0.01231
10 40 0.2500 0.02769
15 35 0.4286 0.04746
20 30 0.6667 0.07383
25 25 1 0.11075

要するに、女性首相が誕生するという象徴的なできごとが起きるだけでは、グローバルジェンダーギャップ指数に変化はほとんど見られない。長期的に女性が首相を務めることで、初めてジェンダーギャップ指数に明確な改善が表れるのだ。

参考文献

注釈