ノーベル賞は非課税対象だが、アーベル賞は課税対象

概要
ノーベル賞やフィールズ賞の賞金は日本の所得税法により非課税とされているが、同様に権威ある数学の賞であるアーベル賞は非課税の対象とされておらず、課税対象となっている。

賞金に対する税制上の扱い

ノーベル賞には物理学賞、化学賞などがあるが、数学に関する賞は存在しない。その代わりに、しばしば「数学のノーベル賞」と呼ばれる賞として、フィールズ賞アーベル賞が挙げられる。

いずれも世界的に権威のある賞であり、受賞することは研究者としてこの上ない栄誉だろう。ただし、日本においては、これらの賞金に対する税制上の扱いに違いがある。具体的には、アーベル賞だけが所得税の課税対象となる

アーベル賞には所得税がかかる?
アーベル賞には所得税がかかる? ((イラストはChatGPT 4o による描画。))

所得税法の規定

日本の所得税法(昭和40年法律第33号)第9条第1項第13号では、学術・芸術に関する特定の年金や賞金について、所得税を課さないと定められている。たとえば、文化功労者年金、日本学士院賞、日本芸術院賞などがその対象だ。

  1. イ 文化功労者年金法(昭和二十六年法律第百二十五号)第三条第一項(年金)の規定による年金
  2. ロ 日本学士院から恩賜賞又は日本学士院賞として交付される金品
  3. ハ 日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品
  4. ニ 学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国、地方公共団体又は財務大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)で財務大臣の指定するもの
  5. ホ ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品
  6. ヘ 外国、国際機関、国際団体又は財務大臣の指定する外国の団体若しくは基金から交付される金品でイからホまでに掲げる年金又は金品に類するもの(給与その他対価の性質を有するものを除く。)のうち財務大臣の指定するもの
所得税法(昭和40年法律第33号)第9条第1項第13号

ノーベル賞については、ホにおいて明確に非課税とされている。また、ニおよびヘでは、「財務大臣が指定する」団体や基金から交付される金品について、所得税を免除する旨が記されている。ここで重要になるのが、「指定」された賞のリストだ。

非課税とされる賞に関する告示

この指定リストは、「所得税法第九条第一項第十三号ニ又はヘに規定する団体又は基金及び交付される金品等を指定する件」(昭和44年大蔵省告示第96号)という告示に記載されている。その第24号にはフィールズ賞が明示的に挙げられている。よって、フィールズ賞の賞金は日本でも非課税扱いになる。

一方、アーベル賞はこの告示の中に含まれていない。したがって、現状ではアーベル賞の賞金は日本では所得税の課税対象となる。

もっとも、アーベル賞は2001年創設と歴史こそ浅いものの、先に挙げた告示に載っている他の賞と相応な権威がある賞だ。今までは日本人の受賞者がいなかったからさほど問題にはならなかったのだろうが、2025年には京都大学の柏原正樹特任教授が日本人として初めてアーベル賞を受賞した ((The Norwegian Academy of Science and Letters. (n.d.). Masaki Kashiwara: The abel prize. https://abelprize.no/abel-prize-laureates/2025 (accessed on 30 Mar 2025))) 。

このような状況を踏まえると、アーベル賞を指定リストに加えることはごく自然な対応だと考える。法律の条文そのものを改正する必要はないのだから、国会での議決を経る必要もない。財務大臣が告示を改正すれば済む話であり、これで税収が減ると言ってもたかがしれている。むしろ、世界に誇る研究者の功績にふさわしい税制上の配慮として、多くの人が納得できる変更ではないかと思う。