「サラダ記念日」の元となった経験は、サラダ作りでなく、鶏の唐揚げを作ったこと

概要
歌人の俵万智氏が詠んだ「サラダ記念日」の短歌は、現実に起きたことをそのまま写し取ったものではない。もともと鶏の唐揚げがうまくできた体験があり、そこから「サラダ記念日」の短歌が創作された。

「サラダ記念日」の短歌

歌人の俵万智氏が詠んだ有名な短歌に次のものがある。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

俵万智.(1987). 『サラダ記念日』河出書房新社.p. 125

この短歌をありのままに読むと、歌人が実際に7月6日にサラダを作って、相手にその味を褒められたシーンが想像できるだろう。しかし、これは現実に起きたことをそのまま写し取ったものではない。「七月六日」と「サラダ」というのは歌人が頭の中で作り上げたものである。

サラダ記念日の元となった経験と作歌の流れ

この短歌の元となった経験は、鶏の唐揚げをカレー味にしてボーイフレンドに褒められたことであるらしい。本人が2014年7月6日のツイートでこのことについて触れている。しかし、鶏の唐揚げだと重いということで、サラダにしたそうだ [1]

そして、サラダが合う季節で、しかもS音で始まる「サラダ」に合わせて、同じくS音で始まる「七月」にしたとのことである [2] 。歌集『サラダ記念日』に載っている別の短歌には、「サ行音ふるわすように降る雨」(p.116) という表現があり、このあたりに歌い手のサ行音(Sから始まる音)へのこだわりが感じられる。

また、7月でも6日にしたのは、特別な日ではない普通の日ということで、七夕(7月7日)の前日にしたためである [3]

ところで、この短歌は、「七月」と「サラダ」がS音始まりになっているだけでなく、他のところでも同じ音で始まるようになっている。このことを分かりやすくするために、「サラダ記念日」の短歌をローマ字で書き表してみよう。

Kono azi-ga Iine-to Kimi-ga Itta-kara Siti-gatu muika-wa Sarada Kinen-bi

上のローマ字表記で強調したように、第1句から第3句においてはK音とI音で始まる語が交互に出現している。つまり、K音で始まる「この」と「君」が頭韻をなし、さらにI音で始まる「いい」と「言った」が別の頭韻をなしている。そして、第4句と第5句で、例の「七月」と「サラダ」のS音の頭韻があり、最後に、「記念日」というK音で始まる語が現れる。

要するに、ここには K-I-K-I-S-S-K というリズムがあり、このリズムがこの短歌を印象的にしている面白いところであると思う。

脚注
  1. 俵万智氏の2014年7月6日の別のツイートによる。 []
  2. 俵万智氏の2014年7月6日のもう1つのツイートによる。 []
  3. 俵万智氏の2014年7月6日の今1つ違うツイートによる。 []