甲骨文字から描き出した殷王朝の歴史

概要
甲骨文字で残された記録を同時代資料として用いて殷王朝の歴史を描き出した書籍の紹介。

同時代資料としての甲骨文字の使用

は、中国史上、存在が明らかになっている王朝の中で最も古い王朝である。かつては殷王朝の同時代資料が残されておらず、殷王朝について知るには、後世の資料に頼るしかなかった。しかし、20世紀以降、殷王朝の遺跡の発掘が進み、その過程で甲骨文字という漢字の原型となった文字で書かれた記録が大量に発見された。このことにより、殷王朝の歴史を同時代資料を用いて描写することができるようになったのである。

この記事で紹介する『殷——中国史最古の王朝』という本は、甲骨文字で残された記録を同時代資料として用いて、殷王朝の歴史を描いた一般向けの新書である。

この本は、『尚書』や『史記』といった後世の文献に記述された殷王朝についての内容を排除し、あくまでも甲骨文字で残された同時代の記録から殷王朝を描こうとしている。さらに、考古学上の発見から自らの歴史描写を裏付けようとしている。一般に、後世の文献よりも同時代の資料の方が歴史を語る際には重要な根拠となる。その意味で、甲骨文字での記録を重視した著者の立場はまっとうなものであると言えよう。

構成

殷——中国史最古の王朝』では、殷代を以下のように時期区分し、時期ごとに順を追って説明している。

なお、第2章には後期の殷王朝の支配体制について、第3章には後期の殷王朝の祭祀についてまとめられている。