聖職者でないカトリック信徒が教皇になる可能性

概要
カトリック信者の男性ならば平信徒でもローマ教皇に選出される可能性はある。実際、カトリックでは平信徒がローマ教皇に選出された場合の規定が存在する。

教皇の選出方法

ローマ教皇は、カトリックの最高指導者であり、コンクラーベ (conclave) という選挙を通じて選ばれる。現在の規定によれば、コンクラーベに参加できるのは80歳未満の枢機卿である。すなわち、ローマ教皇を選ぶ選挙の選挙権は、枢機卿に限定されている。しかし、被選挙権は枢機卿に限定されているわけではない。実は、聖職者ですらない平信徒が教皇に選出される可能性もある。

教皇の条件

現在の教会法の体系では、教皇になるために必要な条件は3つある。

  1. 男性 [1] であること
  2. カトリック信徒としての洗礼を受けていること
  3. 教皇になるということを承諾できる理性があること [2]

要するに、カトリック信者の男性で、まともな大人であれば誰でも教皇に選出されうるのである。すでに聖職者であるかどうかは関係なく、平信徒でも教皇となりうる。

平信徒が選出された場合の規定

教会法では聖職者でない信徒が教皇に選出された場合の規定が存在する。この規定によれば、平信徒が教皇に選出された場合、まず枢機卿団がその人を聖職者にし、しかる後に教皇とすることになっている。

教皇選挙に関しては、ヨハネ・パウロ2世が1996年に発した使徒憲章 Universi Dominici Gregis使徒座空位と教皇選挙に関して)に詳細な取り決めがなされている。この憲章の88条には以下のように書かれている。

選出された人が司教なら、受諾した時からローマ教会の司教、教皇、司教団の頭として普遍教会に対して最高権を有し、これを行使することが出来る。

選出者が司教でない場合は直ちに司教に叙階される。

「使徒座空位と教皇選挙に関して」(カトリック中央協議会訳)

一般信徒が教皇に選出された場合、後段の規定が適用される。つまり、平信徒から直接教皇になるのではなく、まず司教となる。司教になると、88条の前段の規定によって自動的に教皇となる。

平信徒が教皇に選出された例

歴史上、平信徒が教皇に選ばれた例がいくつかある。

教皇ファビアヌス
教皇ファビアヌス

古代には、3世紀の教皇ファビアヌス(在位:236-250)が俗人から教皇になった例がある。ファビアヌスはもともと農民であり、教皇の候補としては想定されていなかった。しかし、教皇を選ぶために人々がローマに集まった際、ファビアヌスの頭の上にハトがとまったため、これが神意だとしてファビアヌスを教皇にしたとのことである。ただし、古代はキリスト教の聖職の制度がちゃんと確立していたわけではないので、これを中世以降の事例と比較するのは無理がある。

中世の例としては、レオ8世(在位:963-965)がいる。レオ8世が教皇となる前、当時の教皇ヨハネス12世は、神聖ローマ帝国のオットー1世と対立状態にあった。このため、オットー1世はヨハネス12世をローマから追放した。そのころ、レオ8世は教皇庁の書記長を務めていたものの、俗人であった。オットー1世は、ヨハネス12世の代わりの教皇としてレオ8世を教皇とした。

また、ベネディクトゥス8世(在位:1012-1024)、ヨハネス19世(在位:1024-1032)、ベネディクトゥス9世(在位:1032-1044)も俗人から教皇になっている。この3人はいずれもローマ近郊の貴族であるトゥスクルム伯家の出である。この時期の教皇位は世襲のようなものになっており、ヨハネス19世はベネディクトゥス8世の弟、ベネディクトゥス9世はヨハネス19世の甥である。

脚注
  1. カトリックでは女性は聖職者になれない。よって、女性が聖職者の一種である教皇になることは当然できない。 []
  2. 要するに民法で言うような権利能力があるかどうかといったことだ。 []