はじめに
現在の日本には広域自治体として、都・道・府・県が設置されている。しかし、都道府県の4種類が昔からあったわけではない。東京都が設置されたのは、1943年のことである。それまでは、都はなく、東京府であった。つまり、1943年以前においては、都道府県ではなく、道府県だったのである。
このため、東京都が成立する前に作られた法令では、「都道府県」と表すのではなく「道府県」と表したり、「都道府県知事」と表すのではなく「北海道庁長官、府県知事」 [1] のように表された。こうした法令のほとんどは、その後の改正によって文言が「都道府県」や「都道府県知事」に変わっている。
しかし、改正によって文言が変わることがなく、文言の上では都だけが無視されているように見える法令がいくつかある。ただし、実務上は「道府県」と書いてあっても「都道府県」と読み替えて運用するはずで、実際には都だけが仲間はずれになるわけではないはずだ。
以下では、文言の上で、都だけが無視されているような法令の例を紹介する。
無尽業法
無尽業法(昭和六年四月一日法律第四十二号、最終改正:平成二六年六月二七日法律第九一号)の第6条では、「無尽会社ノ営業区域ハ道府県ノ区域内ニ於テ之ヲ定ムベシ」(強調引用者)とされており、都の話は書かれていない。
警察署内ノ留置場ニ拘禁又ハ留置セラルル者ノ費用ニ関スル法律
明治三十五年法律第十一号(警察署内ノ留置場ニ拘禁又ハ留置セラルル者ノ費用ニ関スル法律、最終改正:平成一一年一二月二二日法律第一六〇号)では以下のように規定されている。
ここでは、「北海道地方費及府県」とされており、都の話は書かれていない。
陸上交通事業調整法
陸上交通事業調整法(昭和十三年四月二日法律第七十一号、最終改正:平成二六年六月一三日法律第六九号)の第7条では以下のように規定されている。
ここでは、「都知事」のことは書かれていない。また、北海道についても「北海道知事」ではなく「北海道庁長官」のままになっている。
行旅病人死亡人等ノ引取及費用弁償ニ関スル件
明治三十二年勅令第二百七十七号(行旅病人死亡人等ノ引取及費用弁償ニ関スル件)の第1条では、以下のように規定されている。なお、この勅令は現在では政令をして扱われている。
ここでも、都の話は書かれていない。
- 戦前は、北海道には北海道庁が置かれ、そのトップには知事ではなく北海道庁長官が置かれた。 [↩]