埼玉県は法律上の首都圏の定義に載っているが、千葉県はそうではないという話
国土形成計画法上の「首都圏」
日本の「首都圏」と言われたとき、どの範囲を想像するだろうか。国土形成計画法(昭和25年法律第205号)第9条第1項第2号 ((国土形成計画法は、法律番号上は昭和25年(1950年)の法律となっているが、実質的には平成17年(2005年)の法律である。昭和25年の段階では、「国土総合開発法」という名称の法律で、この時点ではまだ「首都圏」の定義が書かれていなかった。平成17年に全面的に改正が行われ、名称が「国土形成計画法」に代わり、「首都圏」の定義が入るようになった。)) において、「首都圏」は以下のように定義されている。
埼玉県、東京都、神奈川県その他政令で定める県の区域を一体とした区域をいう。
そして、ここで言う「政令」として国土形成計画法施行令(平成18年政令第230号)があり、その第1条第1項で以下のようにされている。
国土形成計画法(以下「法」という。)第九条第一項第一号の政令で定める県は、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県及び山梨県とする。
すなわち、国土形成計画法とその施行令に基づくと、首都圏は以下の1都7県になる。
- 法定の都県 ((国土交通省の施行令制定の資料においては、首都圏について「埼玉県、東京都、神奈川県(以上法定)」と明言しており、いちおう法定の都県とそれ以外の県が分けられている。))
- 埼玉県
- 東京都
- 神奈川県
- 政令で定める県
- 茨城県
- 栃木県
- 群馬県
- 千葉県
- 山梨県
しかし、東京圏の事情を知っている人からすると、埼玉県が法定で、千葉県が「その他」に入れられているのは変な感じがするだろう。東京都が中核、横浜をかかえる神奈川県がその次の中核、そして埼玉県と千葉県がどっこいどっこいで周辺というのがふつうの感覚だろう。そして、ふつうは「一都三県」と称して東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県をひとくくりにすることが多いはずだ。
それなのに、なぜ千葉県が法定でないのか。逆に東京圏における中核度が千葉県とそんなに変わらない埼玉県がなぜ法定の方に入っているのか。
法律の中に記載されているのと、政令の中に記載されているのではだいぶ違う。法律はわざわざ国会の議決を通さなければ改正できない。一方で政令は内閣だけで改正できる。極端な話、千葉県を首都圏から外したければ、内閣の一存でできる。これに対して埼玉県を首都圏から外したければ国会の審議を経ないといけないのである。ハードルがだいぶ違うのだ。

埼玉県と千葉県が違う理由
ざっと調べてみたのだが、埼玉県と千葉県で扱いが違う理由は見当たらなかった。国会審議等でも特にこの辺の議論はなかった。内閣法制局の逐条審査資料などに何か載っているかもしれないので、開示請求などをしてわかったら追記しておきたい。
ただ、一つ可能性があるのは、埼玉県川口市が首都圏整備法上の既成市街地になっている事実である。首都圏整備法第2条第3項では、以下のように「既成市街地」を定義している。
東京都及びこれと連接する枢要な都市を含む区域のうち、産業及び人口の過度の集中を防止し、かつ、都市の機能の維持及び増進を図る必要がある市街地の区域で、政令で定めるもの
この既成市街地としては、東京23区、東京都武蔵野市が挙げられているほか、東京都三鷹市、神奈川県横浜市、神奈川県川崎市、埼玉県川口市のそれぞれの一部区域が挙げられている(首都圏整備法施行令(昭和32年政令第333号)第2条および別表)。
これらの市区を含む都県を選んだことで、国土形成計画法では埼玉県・東京都・神奈川県が明記されたのかもしれない。つまり、首都圏整備法上の既成市街地との整合性をとるために国土形成計画法で都県を明示したのかもしれない。
これを示唆する証拠として、国土形成計画法における近畿圏・中部圏の定義がある。同法では、近畿圏を「京都府、大阪府、兵庫県その他政令で定める県の区域を一体とした区域」とし、中部圏を「愛知県、三重県その他政令で定める県の区域を一体とした区域」としている。つまり、近畿圏においては京都府・大阪府・兵庫県が法定、中部圏では愛知県・三重県が法定となっている。
これらの府県には、首都圏整備法上の既成市街地と似たような地域がある。具体的に言うと、近畿圏には近畿圏整備法上の「既成都市区域」、中部圏には中部圏開発整備法上の「都市整備区域」というものがある。
近畿圏整備法上の既成都市区域があるのは京都府・大阪府・兵庫県であり ((近畿圏整備法施行令(昭和40年政令第159号)第1条および別表により、大阪市のほか、京都市・大阪府守口市・大阪府布施市(現東大阪市)・大阪府堺市・兵庫県神戸市・兵庫県尼崎市・兵庫県西宮市・兵庫県芦屋市の一部が既成都市区域とされている。)) 、中部圏開発整備法上の都市整備区域があるのは愛知県と三重県である。つまり、これらと国土形成計画法上の府県が合致しているのだ。
とはいえ、ここは想像に過ぎないので、逐条審査資料などを見て、また本当のところを調べてみたいと思う。
補:なぜ埼玉県が東京都より先に来ているのか
国土形成計画法上の首都圏の定義においては、「埼玉県、東京都、神奈川県その他政令で定める県の区域」と埼玉県が東京都より先に来ている。
首都圏の中核が東京都であることは明らかだから、東京都が筆頭に来ていてもおかしくないところだ。それなのに、なぜ埼玉県が東京都より先に来ているのか。
これはおそらく、都道府県コードが若い順(いわゆる北南順で、おおむね北から南に都道府県を並べたもの)に都道府県を並べたからだろう。都道府県コードは埼玉県が11、東京都が13、神奈川県が14なので、この順になるのだ。
国土交通計画法第9条第1項第2号の近畿圏の定義でも、「京都府、大阪府、兵庫県その他政令で定める県の区域を一体とした区域」という順番になっている。ここでも都道府県コードは京都府が26、大阪府が27、兵庫県が28となっており、若い順に並んでいることが分かる。
国土形成計画法施行令においても、都道府県コードが若い順に並べられている。施行令で定められた首都圏の県は「茨城県、栃木県、群馬県、千葉県及び山梨県」となっているが、都道府県コードはそれぞれ08, 09, 10, 12, 19である。
補:他の法律での首都圏の定義
実は、どの法律でも首都圏を定義するときに国土形成計画法のように埼玉県・東京都・神奈川県を使っているわけではない。例えば、首都圏整備法(昭和31年法律第83号)の第2条第1項では、「首都圏」が以下のように定義されている。
この法律で「首都圏」とは、東京都の区域及び政令で定めるその周辺の地域を一体とした広域をいう。
ここでは、代表として東京都が挙げられているだけである。そして、首都圏整備法施行令(昭和32年政令第333号)第1条において、以下のように規定されている。
首都圏整備法(以下「法」という。)第二条第一項の政令で定めるその周辺の地域は、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県、栃木県、群馬県及び山梨県の区域とする。
結果としては、国土形成計画法とその施行令に基づく首都圏の都県と一致するものとなっている。