唐代の律の規定が分かる小冊子

概要
唐律の規定をコンパクトにまとめた『科挙対策 律令』という同人誌の紹介。

はじめに

唐(618年-907年)の、すなわち当時の刑法に関する規定をコンパクトにまとめた小冊子として、『科挙対策 律令』という同人誌がある。以下では、この小冊子について紹介していきたい。

『唐律疏義』をもとにした説明

『科挙対策 律令』という本は、「唐朝公務員試験対策」と副題にあるように、現代日本の公務員試験対策本のパロディーのような体裁になっている。しかし、その中身は実に真面目なものである。なお、この本のタイトルには「律令」とあるが、令についてはほとんど論じられていない。もっぱら、当時の刑法に相当する律について論じている

この本の律の説明は、『唐律疏義そぎ』という唐代に書かれた律のコンメンタール(逐条解説)をもとにしている。『唐律疏義』は、唐の高宗の代に長孫ちょうそん無忌ぶきらによって編纂された書物で、当時の律の条文を集成し、注釈を加えたものである。

『唐律疏義』の内容を現代日本語で分かりやすく整理したのが『科挙対策 律令』になっている。『唐律疏義』では律の条文ごとに順番に説明がなされているが、『科挙対策 律令』では『唐律疏義』の順番にこだわらず、関連する内容を1カ所にまとめて説明している。例えば、皇帝に対する犯罪について、唐律では職制律、名例律、雑律に分かれている内容が、『科挙対策 律令』では1カ所にまとめられている。

注意しておきたいのは、『科挙対策 律令』の内容はあくまでも『唐律疏義』に従った当時の法の理想であって、必ずしも唐代の刑罰の実際の運用を反映していないということである。法の実際の運用を知りたければ、別書を当たる必要がある。とはいえ、それでこの本の内容が無意味になるというものではない。刑罰の実情ザインの裏には、当為ゾルレンが存在している。実情を深く理解するためには、当為を知らないわけにはいかないのだ。

なお、日本の古代の律令は、唐王朝の律令を移入したものである。特に律に関しては、唐律をほとんどそのまま使っている [1] 。このため、唐律を知ることは日本の律令制を理解することにもつながる。

入手方法

『科挙対策 律令』は同人誌であるため、一般の書店では手に入らない。今のところ、中国関係の専門書店である東方書店を通じて入手するのが最も容易であろう。東方書店は東京神保町に実書店があるほか、オンラインショップもやっている。オンラインショップから入手したければ、東方書店の『科挙対策 律令』のページから注文しよう。

脚注
  1. 前田禎彦.(2015). 「古代の裁判と秩序」『岩波講座 日本歴史 第5巻 古代5』(pp.181-214). 東京:岩波書店. []