講談社『中国の歴史』の中国での翻訳出版

概要
講談社『中国の歴史』が2014年に中国で翻訳出版された際の状況について簡単に説明。原著は12巻なのだが、中国での翻訳出版の際には2巻分が削られている。

翻訳出版の概要

2004年から2005年にかけて、講談社から『中国の歴史』 [1] という中国の通史シリーズが出版された。このシリーズは主に日本の中国史研究者によって書かれた一般向けの書籍で、12巻で構成される〔2014年7月1日:この文の誤字修正〕。この『中国の歴史』が中国語に翻訳され、2014年に《讲谈社・中国的历史》というタイトルで広西師範大学出版社から中国国内に向けて出版された。

中国ではそこそこ売れているようで、『北京青年報』の電子版の記事 [2] によると、初刷の2万冊はたちどころに売れ、1万冊をすぐに増刷したとのことである。中国人とは違った観点で中国の歴史を見ている点と、専門家が一般向けに書いているという点で評価されているようである。

出版されない2巻

講談社『中国の歴史』はもともと12巻構成なのだが、中国での翻訳出版では10巻に減っている。これは原著の第11巻『巨龍の胎動』と第12巻『日本にとって中国とは何か』が中国では出版されなかったためである。

原著の第11巻『巨龍の胎動』は主に中国共産党の創立から現代までの歴史を扱っている。原著の第12巻『日本にとって中国とは何か』は特定の時代にとらわれず、中国文明の特質や日本との関係について論じている。

中国で編集を担当した楊暁燕氏によれば、中国で編集される通史は一般的に中華人民共和国成立前で叙述を終えるために第11巻は出版されず、第12巻は通史ではないから出版されないとのことである [3] 。しかし、中国社会科学院歴史研究所の孟彦弘研究員は、第11巻が出版されなかった理由として、日中戦争と南京大虐殺に関する議論が含まれていることを挙げている [4]

〔2014年6月15日追記:人民網日本語版の「日本人学者による中国史出版 『根拠に基づいた適切な歴史観』=中国」という2014年3月11日付の記事によると、「中国語版に削除カ所が存在したかどうかという問題」について、楊暁燕氏は、「契約規定により、中国語版は原則的に書籍の削除・追加は許されておらず、削除・追加に関してはすべて原作者の同意を得なければ行えない」と述べたという。〔2014年9月28日:この文の誤字修正〕〕

地図の違い

原著の各巻の見返しには、現代中国の地図が描かれている。訳本にもこの地図をもとにした地図が載っているのだが、いくつかの点で違いがある。

いずれも中国政府が領有を主張している地域で、領有権争いが発生している地域である。中国では国家測量製図地理情報局(国家测绘地理信息局)が出版物に含まれる地図に対して、出版前の事前審査を行っている。『南都網』の報道 [7] によると、講談社『中国の歴史』シリーズの地図は国家測量製図地理情報局によって一旦は突き返されたとのことである。

脚注
  1. 講談社からは1974-75年にも『中国の歴史』という通史シリーズが出版されている。 []
  2. 张嘉. (2014年2月28日)〈《讲谈社·中国的历史》刚上架就加印〉《北京青年报电子版》 http://epaper.ynet.com/html/2014-02/28/content_43217.htm. []
  3. 林子敬. (2014年3月25日)〈日本汉学家眼中的中国史〉《凤凰周刊》2014年9期 http://www.ifengweekly.com/display.php?newsId=7743. []
  4. 孟彦弘. (2014年3月28日)〈关于《讲谈社·中国的历史》〉《南方周末》2014年9期 http://www.infzm.com/content/99345. []
  5. 日本名:魚釣島 []
  6. 日本名:大正島 []
  7. 中文版“中国的历史”背后的故事〉(2014年3月9日)《南都网》 http://paper.nandu.com/nis/201403/09/185349_4.html. []