全米ライフル協会が出した銃をテーマにしたおとぎ話

概要
全米ライフル協会が運営しているウェブサイトに、ヘンゼルとグレーテルや赤ずきんちゃんが銃を持っていたらどうなっていたかというおとぎ話が掲載されている。

はじめに

全米ライフル協会 (National Rifle Association of America; NRA) は、米国において銃所持の権利を擁護している圧力団体である。同協会が運営しているNRA Familyというウェブサイトに、「ヘンゼルとグレーテル」・「赤ずきんちゃん」で主人公が銃を持っていたらどうなっていたかというおとぎ話が載っている。

以下、この銃をテーマにしたおとぎ話がどのようなものなのか紹介しよう。

あらすじ

ヘンゼルとグレーテル(銃を所持)

NRA Familyというウェブサイトに載っている「ヘンゼルとグレーテル(銃を所持)」 (Hansel and Gretel (Have Guns)) のあらすじは以下の通りである。

もうすぐ冬になろうというのに、ヘンゼルとグレーテルの家族は食糧が足りずに困っている。そこで、ヘンゼルとグレーテルは、銃を持って食糧確保のため森にハンティングに行くことになる。なお、ヘンゼルもグレーテルも安全に銃を使用する方法を教えられているし、家族とハンティングをしたことがあるので問題はない(NRA的な意味で)。

ヘンゼルとグレーテルは森の中でハンティングをし、無事に成果を得ることができた。そして、ヘンゼルとグレーテルは森の中でお菓子の家を見つける。お菓子の家に入ると、2人の兄弟が魔女にとらわれていた。ヘンゼルとグレーテルは魔女が寝ているすきに、この兄弟を逃がした。

村に戻ったヘンゼルとグレーテル(銃を所持)は、村人(もちろん銃を所持)を引き連れ魔女の討伐に行った。だが、お菓子の家にたどり着いたときには、保安官がすでに魔女をおりに閉じこめていたところであった。保安官が見張りに立って村人は無事にハンティングでき、みんなで森の中でお祭りをした。魔女のお菓子の家はそのときの素晴らしいデザートとなったとさ。

何というか、すごい展開である。個人的感想を言えば、銃政策への賛否をおいても、物語としては程度が低いと言わざるをえない。保安官なんか、デウス・エクス・マキナ的に突然出てきたりする [1] し、話の流れをちゃんと作ろうという感じがしないのだ。

赤ずきんちゃん(銃を所持)

NRA Familyというウェブサイトに載っている「赤ずきんちゃん(銃を所持)」 (Little Red Riding Hood (Has a Gun)) のあらすじは以下の通りである。

赤ずきんちゃんは、おばあさんのお見舞いのために森に入る(もちろん銃を持って)。赤ずきんちゃんは雪につけられた足あとを見て、狼が近くにいることを知る。そして、赤ずきんちゃんは狼に遭遇する。だが、なんだかんだで、赤ずきんちゃんが銃を撃つ準備をすると、狼は逃げ去った。

その後、狼はおばあさんの家に現れる。おばあさんが「なんて大きな歯なんでしょう」と言うと、おおかみは「お前をうまく食べるためさ!」と言って口を大きく開ける。だが、狼はそこで止まった。おばあさんがショットガンをつきつけようとしたからである。「私が今日食べられるとは思わないね、そしてあんたは二度と人を食べられないでしょうね」と言うおばあさん。そして、後からやってきた赤ずきんちゃんとおばあさんが一緒になって狼をしばりあげ、ハンターに引き合わせたとさ。

これも物語としてはあまり出来が良くない。とはいえ、このあまり出来の良くない話の中に、銃を持つことの正当性がふんだんに散りばめられている。例えば、以下の文は銃規制の強い日本に住んでいると狂気すら感じてしまうのだが、銃にどっぷりはまっている人からすれば違和感がないのだろう。

Red was given her very own rifle and lessons on how to use it–just in case–to be sure that she would always be safe.

(訳:赤ずきんちゃんは、常に安全でいられるように、自分用のライフルを与えられていて、それをどう使うか――もしものために――を教えられているのです。)

Hamilton, A. (2016). Little Red Riding Hood (Has a Gun). NRA Family.

これらのおとぎ話の作者について

これらのおとぎ話を書いた人は、アミリア・ハミルトン (Amelia Hamilton) という女性である [2] 。彼女のTwitter のアカウント紹介文の最初には、「神、家族、国家」(God, family & country.) と書いているぐらいなので、どういう背景の人かはお察しください。あと、One Nation Under God: A Book for Little Patriotsという子ども向けの絵本も書いているそうだ。

なお、CBSのニュース番組で、このハミルトン氏がインタビューに答えている。Youtube上にCBS This Morning- NRA Fairy Talesというタイトルでこのインタビューの動画が上がっている。

脚注
  1. 多分ヘンゼルやグレーテルが魔女を殺す展開を避けようとしたために、突然保安官を出したのだろうけれども。 []
  2. ハミルトン氏の公式ウェブサイトはhttp://ameliahamilton.weebly.com/にある。 []