中国で出された『ドラゴンボール』の「続き」のコミックス

概要
マンガ『ドラゴンボール』の完結後、1年と経たずに中国で勝手に出された「続き」のコミックスのストーリーを紹介。原作の最後のシーンの3年後に、魔導師バビディが復活し、戦士たちが戦うという設定である。

はじめに

中国で出された『ドラゴンボール』:「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第1冊
中国で出された『ドラゴンボール』:「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第1冊

マンガ『ドラゴンボール』が完結してすぐに、中国で『ドラゴンボール』の続きが描かれ、原作コミックスと同列にして売られていたという話について紹介しよう。

鳥山明が描いた『ドラゴンボール』は、日本のマンガ史上最も人気のある作品の1つであろう。『ドラゴンボール』は1984年12月に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まり、1995年5月の『週刊少年ジャンプ』25号にて連載が終了した。そして、同年8月にマンガ『ドラゴンボール』の最終巻である第42巻が出版され、この長いストーリーは完結を迎えたのである [1]

しかし、原作者が作品を完結させたからといって、『ドラゴンボール』が終わったわけではない。作品完結当初から、『ドラゴンボール』の続きやサイドストーリーを描こうとする動きが公式・非公式を問わず存在した。例えば、アニメについては、1996年から原作マンガが終了した後のストーリーを描く『ドラゴンボールGT』が放映された。

作品が終わったにもかかわらず、『ドラゴンボール』の続きなどを描こうとする動きが出てきたのは、まずファンが『ドラゴンボール』をもっと見たいと考えていたからだろう。そして、コンテンツ作成者側としてもこうしたファンの思いに応じれば商業的にもうかるので、新しいストーリーを作って世に出したのであろう。

続きがなければ自分で作るという解決法

続きが見たいというファンの思いは、日本に限ったものではなかっただろう。そして、それを商機だと考えた人もいた。

『ドラゴンボール』は世界的に人気のあるマンガで、中国でもファンが多い。『ドラゴンボール』が連載されている当初から、海賊版という形でコミックスが中国で販売されていた。しかし、1995年に『ドラゴンボール』が完結したことにより、新しいコミックスが出せなくなってしまった。これを受けて、海賊版を出版していた出版社はどうしたか。なんと、勝手に『ドラゴンボール』の続きを描いて、それを今までの原作コミックスと一緒に売り出してしまったのである。

要するに、続きがなければ自分で作ってしまえばよいという解決法をとったのである [2]

筆者の手元には、西蔵人民出版社が出した『ドラゴンボール』の「続き」のコミックスが3冊ある。本来は5冊で1巻を構成するものなのだが、そのうち第1冊・第3冊・第4冊しか手元にない。いずれも奥付によれば1996年5月に出版されたとある。日本の公式の最終巻である『ドラゴンボール』42巻が出版されたのは1995年8月なので、それから1年と経たないうちに出たことになる。(2015年7月5日追記:おそらくこれらのコミックスは普通の商業出版の流通ルートに乗って販売されたと思われる。その点でいわゆる同人誌とは違う。)

「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第3冊
「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第3冊
「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第4冊
「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」巻第4冊

『ドラゴンボール』の原作は、天下一武道会が行われ、そこから主人公の孫悟空が去るところで終わっている。西蔵人民出版社の「続き」の『ドラゴンボール』は、原作の最後のシーンの3年後を扱っている。この続きのストーリーには、「ふたたびドラゴンボールの世界に戻る」(重返龙珠世界)という巻名が付けられている。なお、詳しいストーリーについては後述する。

絵は原作を似せようとしているが、あまりうまいわけではない。

西蔵人民出版社版『ドラゴンボール』に出てくる孫悟空
西蔵人民出版社版『ドラゴンボール』に出てくる孫悟空

悟空はこんなありさまである。下手というわけではないのだが、何か違和感があるといったところである。

中国で出された続きのストーリー

さて、中国で出された『ドラゴンボール』の続きのストーリーについて簡単に紹介しよう。

『ドラゴンボール』の原作は、天下一武道会が開かれ、そこで主人公の孫悟空がかつての敵魔人ブウの生まれ変わりであるウーブに出会い、ウーブとともに修行に出るところで終わる。西蔵人民出版社が出した『ドラゴンボール』の場面の設定は、その3年後である。

3年後、天下一武道会が再び開かれる。そこには、修行を終えた悟空とウーブもやってくる。天下一武道会の本選には、悟空とウーブの他、ミスターブウ、ベジータ、トランクス、悟天、クリリン、そしてパンが出場する。

その後、魔導師バビディが復活。ウーブに残る邪悪さに目をつけ、自らの操り人形とする。だが、実はバビディは必ずしも自分の意志で動いているわけではなかった。バビディの上に立つ主人がいて、バビディはその主人の指令を受けているだけだった。

バビディに操られたウーブ
バビディに操られたウーブ

ウーブはパンを連れ去り、バビディはパンを返してほしければドラゴンボールをよこせと要求する。悟空は界王様の力を借りてパンを捜索するが、パンは見つからない。界王様は、パンが「零界」という特殊な空間にいるのかもしれないと告げる。

これと前後して、パンを連れ去ったバビディは、シンディというオリジナルキャラとともに「零界」にいる主人のもとに赴く。

その後、バビディは主人の部下であるオリジナルキャラ「カタイウェイ」(伽太卫)を引き連れ、悟空たちの前に現れる。そして、ベジータらがカタイウェイ隊と戦う。

カタイウェイ隊の面々。割と鳥山明っぽい絵柄になっている。
カタイウェイ隊の面々。割と鳥山明っぽい絵柄になっている。

今、手元にあるもので分かるストーリーはこんなところである。その後のストーリーがどうなったかは不明である。

2023年8月25日追記:三畔亪記さんが、ドラゴンボールの続きに関し「中国におけるドラゴンボールの続巻について」という記事(2023年02月18日付け)を書いている。

その他の中国での『ドラゴンボール』のオリジナルストーリー

(この節は2015年11月3日に追記したものである)

中国では、他にも勝手なストーリーを作った『ドラゴンボール』の海賊版が存在しているようである。例えば、『レッドリボン軍日本支部』というブログの「中国の海賊版コミックをレビュー その2」という記事では、「小猴王」というタイトルの『ドラゴンボール』の海賊版が紹介されている。この海賊版では、原作には存在していないオリジナルストーリーがあるとのことである。

脚注
  1. 鳥山明 (1996). 『DRAGON BALL大全集7 DRAGON BALL大事典』東京:集英社. pp.265-266 []
  2. 続きがなければ自分で作ってしまうということは、『ドラゴンボール』に限ったことではない。例えば、「青文ドラの短編のこと」という記事で紹介されているように、台湾で『ドラえもん』のストーリーを勝手に作って出版した例がある。 []